ノミ生態を知って「家で繁殖させない」

ノミのライフサイクル

部屋にいたるところに潜み、驚異的な繁殖力をもつノミ

ネコノミノミは犬にとって、最も一般的な外部寄生虫で、主に体長1〜3ミリで褐色のネコノミが、犬や人の体表に寄生します。

札幌・東京・那覇最高気温
※ノミは13℃以上であれば活動が可能となる。現在の快適な室内環境では、ほぼ一年中生息できる

⚫︎犬のすぐ近くにノミ予備軍
ノミには卵→幼虫→サナギ→成虫という4つの発育段階があります。犬などの体表にとどまって吸血するのは成虫だけですが、成虫予備軍である卵や幼虫、サナギは、犬のベッドの周辺、ソファーやカーペットの上、家具の下、部屋の四隅など室内の至る所に潜んでいます。

⚫︎梅雨時からあっと言う間に繁殖
ノミは気温18℃〜27℃、湿度75〜85%の環境を好み、梅雨の前後から活発に発生・繁殖します。あるデータによると、快適な環境下に産卵直後のメスノミが10匹いると、1ヶ月後には成虫2000匹、卵9000個以上、幼虫10数万匹に増えると言われています。気温13℃以下では活動しませんが、住環境の快適化や野良猫などにより、冬も寄生・吸血・産卵を繰り返しています。

⚫︎驚異的なジャンプ力で飛びつく
成虫は、犬がはき出す二酸化炭素や気温を感知すると、体長の約60倍もの距離・約100倍もの高さを飛んで動物の体に跳びつきます。動物の体表で吸血と産卵を繰り返し、最長1〜1.5ヶ月ほど生きます。

■ノミの発育・活動に好適な環境条件

温度 湿度
成虫 成虫がう化した後は動物体表が生活の場となる為、気温は関係なくなる 75℃~85℃%
サナギ 24℃~32℃ 78℃~80℃%
27℃ 50%以上

定期的・総合的なノミ駆除が効果的

犬の体に寄生しているノミ成虫に加え、ノミ予備軍は部屋のあちこちにいます。さらに、ノミの成虫駆除薬は、それ以外の発育段階に効きません。そのため、ノミの駆除は、いくつか方法を組み合わせて定期的に行うことが大切です。

⚫︎寄生しているノミの成虫を探す
犬の体に寄生しているノミは、ノミ取りグシで毛をすくことである程度は取り覗けます。黒いフケのような粒が付いてきた時は、ノミの糞かもしれません。濡らしたテッシュの上に置いてみると、ノミの糞なら赤血球が溶け出す為、テッシュが赤くにじみます。確実に駆除するには動物用医薬品の成虫駆除薬を使用します。

⚫︎掃除を念入りに行う
ノミの幼虫は、成虫の糞、人やペットの食べこぼし、フケなどを食べて成長します。掃除機をこまめに丁寧にかけて衛星的な環境を心がけましょう。

●冬でも油断しない
ノミは13℃以上であれば活動が可能となり、現在の快適な室内環境や野良猫などの外部からの浸入で寄生もあり、ほぼ一年中生息できる。愛犬をノミから守るためには一年中駆除薬を投与することをオススメします。ノミの投与薬開始時期

⚫︎ノミ予防薬を使用する
どんなに衛星的な環境を心がけても、どんなに目を凝らしてノミを探しても、色々な発育段階のノミを完全には駆除できません。ノミの成虫を駆除するだけでなく、卵や幼虫の成長を阻害する薬も併用することをオススメします。

ノミが引き起こす犬と人の病気

アレルギー性皮膚炎
▶︎犬への影響・・・ノミの唾液がアレルゲンとなり、1匹でもノミに刺された時に、強い痒みを伴う皮膚炎が起こります。
▶︎人への影響・・・アレルギー体質の人では水泡形成など。

瓜実条虫症
▶︎犬への影響・・・ノミの体内には瓜実条虫の幼虫が入り込んでいることがあり、ノミを潰したりすることで犬・猫の体内に入り感染。多数が寄生すると、下痢や体重減少などを引き起こす。
▶︎人への影響・・・犬・猫に感染するケースと同じく、ノミを潰したりすることで体内に入り感染。主に下痢などを引き起こす。

猫引っかき病(バルトネラ症)
▶︎犬への影響・・・猫の赤血球表面に常在するのが、犬猫では不顕性感染。
▶︎人への影響・・・ノミが媒介するバルトネラ菌が、猫や犬の爪や口腔内を経由し、引っかかれたり、咬まれたりすることで人に感染。リンパ節の炎症や発熱を引き起こします。

ノミ刺咬症
▶︎犬への影響・・・犬や猫の痒みの原因もアレルギー反応の一種
▶︎人への影響・・・ノミに咬まれた皮膚に水泡ができ、強い痒みを伴います。

その他の病害
▶︎犬への影響
・ノミの大量寄生
・吸血による貧血
・毛艶の消失
・吸血の刺激や痒みによるストレス
・掻き傷による化膿性皮膚炎
▶︎人への影響・・・ペストや発疹チフスの媒介

マダ二の生態を知って「咬まれないように」する

マダニの一般的な発育リサイクル

1年中吸血の機会を狙っている「マダ二」

マダニの大きさ
「ダニ」は大きく2つの種類に分けられる事ができます。ひとつは家の中にもいるイエダニやコナダニ、犬の耳の中に寄生するミミヒゼンダニなどのごくごく小さなダニです。そしてもうひとつが、公園などの草むらにもいる大型の吸血ダニで、感染症を媒介する「マダ二(山ダニ)」です。マダ二には約900種類あり、寄生する動物や分布域なども異なりますが、マダ二種最大の特徴は「吸血動物」だということです。

⚫︎マダ二は血液を吸って生きている
マダ二の栄養素は他の動物の血液です。マダ二には、卵、幼ダニ、若ダニ、成ダニの4つの発育ステージがありますが、卵以外の3つのステージでは他の動物に寄生して吸血します。つまり、犬や人をはじめとして鹿や鳥類などの野生動物がいないところでは生きていけません。

⚫︎何日も寄生して吸血し続ける
マダ二は、孵化後、他の動物への寄生・吸血・落下・脱皮を繰り返しながら成長していきます幼ダニは、ネズミや鳥などの比較的小型の動物に寄生すると、3〜5日間体表にとどまっと血液を吸い続け、お腹いっぱいになる(飽血)と落下して地上で落下はして地上で脱皮し、若ダニになります。若ダニは再び犬やタヌキ、人などの別の中型動物に寄生、7〜10日間吸血を続け、再び地上に落下、2度目の脱皮をして成ダニになります。成ダニは更に犬や人、鹿などの大型の動物に寄生、今度は2〜3週間という長い間吸血を続け、十分に吸血するとまた地表に落下して産卵します。

⚫︎マダニは1年を通して活動
マダニの投与薬開始時期ほとんどのマダニは幼ダニ・若ダニの段階で秋から春先まで冬眠し、春になると活動を始めます。そして夏期に成ダニとなり産卵します。しかし、冬に活動するマダニ(キチマダニ)もいるので、発育ステージの異なるマダニがほぼ年間を通して吸血する機械を狙っていることになります。マダニの予防薬を毎月1回投与することで48時間以内で全身に浸透し防げます。

知らないうちに犬や人に忍び寄る「マダ二」

マダニの発生状況
↑春は幼ダニ、夏は若ダニ~成ダニに咬まれやすい。秋には幼ダニ、早春から初夏には若ダニあるいは幼ダニに咬まれやすい。
フタトゲチマダニ:日本の草地に広く分布するマダニで、15℃以上で活動的になる。犬には、犬バベシア症、人では、SFTSや日本紅斑熱を媒介する

⚫︎マダ二が潜むのは草むらの中
マダ二は、公園や山の中、河川敷、あぜ道など草むらの中の葉の先端などに潜んで、他の動物が通るのを待ち構えています。そして動物が通過する時の振動や体熱、二酸化炭素などを感知し、動物が葉に触れた瞬間乗り移ります。

⚫︎マダ二に刺されても痛みはない
他の動物に乗り移ったマダ二は、皮膚が薄く吸血しやすい場所を探して移動し、吸血場所を決めると、ノコギリのような鋭い刃で皮膚を切り裂き、更に逆目のトゲがたくさん生えた「モリ」状の固定器官を皮膚の奥まで差し込み、まずは唾液を注入します。この唾液にはセメントのような物質が含まれているため、更に動物の体にしっかり固定され、簡単には体から離れないようになります。同時に麻酔効果のある物質も存在するため、皮膚が敏感な人でさえもマダ二に刺されてもほとんどの場合、気がつきません。吸血され続けても痛みも痒みも感じにくい為、何日にも渡って吸血されることになるのです。

⚫︎見つけにくい幼ダニ・若ダニ
痛みや痒みといった症状がない為、マダ二に気がつくのは目で確認した時が多いのです。成ダニは吸血が終わると1〜2センチほどの大きさになる為、犬に寄生していても比較的見つけやすいです。しかし、体長約1〜1.6ミリの幼ダニや若ダニは吸血しても体の大きさはあまり変わらず、しかも成ダニに比べて色も薄く、特に幼ダニを目で見つけるのは困難です。

マダ二が引き起こす犬や人の感染症

⚫︎犬は「犬バベシア症」に注意
マダ二は犬や人にも様々な感染症を媒介します。犬にとって特に危険で厄介な感染症のひとつが犬バベシア症です。特効薬がない為、場合によっては死に至ることもあります。日本での主な流行地域は近畿以西ですが、近年は東日本以北での感染例も報告されています。なお、人が馬やネズミのバベシアに感染することはありますが、犬と同じ病原体が人に感染することはありません。

⚫︎死亡例もある、人の「SFTS」
人がかかる感染症で現在問題になっているのが、「重症熱性血小板減少症群(SFTS)」です。西日本を中心に多くの死亡例が報告されていますが、媒介するウイルスを持つタカサゴキララマダ二は西日本に多いものの、フタトゲチマダ二は日本全国に分布しているため、全国どこでも発生しうると考えられます。まだ、有効な治療薬はありません。SFTSの病原体(SFTSウイルス)にも伝播されますが、発症した報告はありません。

直接的な寄生による病気(犬への影響)

貧血・・・マダ二が大量に寄生し吸血した結果、貧血を引き起こします。
アレルギー性皮膚炎・・・マダ二の唾液がアレルゲンとなり、強い痒みなどを引き起こします。
ダニ麻痺症・・・マダ二には種類によって唾液中に毒性物資を生産するものもいます。そうしたマダ二が吸血する時に唾液中の毒性物資が体内に注入されると、神経障害(弛緩性麻痺)を引き起こします。

マダ二媒介性疾患と病原体

日本紅斑熱(リケッチア)
▶︎犬への影響・・・犬に感染する可能性も指摘されていますが、明らかではありません。
▶︎人への影響・・・39℃〜40℃の高熱、頭痛、悪寒、倦怠感などの他、発疹(紅斑)が全身にみられる。また、刺し口が赤く腫れるなどの症状が見られる。

重症熱性血小板減少症(ウイルス)
▶︎犬への影響・・・抗体陽性の犬は多数報告されていますが、症状が現れません。
▶︎人への影響・・・6日〜2週間の潜伏期間後に、発熱、倦怠感、食欲低下、消化器症状、リンパ節の腫れ、出血(血小板減少など)がみられる。

バベシア症(バベシア原虫)
▶︎犬への影響・・・貧血、発熱、黄疸、元気消沈など。症状が重い場合は急死することも。
▶︎人への影響・・・発熱、貧血など。

ライム病(ボレリア菌)
▶︎犬への影響・・・発熱や食欲不振、全身性痙攣、関節炎など。
▶︎人への影響・・・赤い丘疹(マダ二に咬まれた部分を中心とする遊走性紅斑)や発熱、関節炎などがみられる。放置すると、心膜炎や顔面神経麻痺などが起こることもある。

Q熱(コクシエラ菌)
▶︎犬への影響・・・軽い発熱や竜座・不妊症などが見られる不顕性感染が多い。
▶︎人への影響・・・インフルエンザに似た高熱や呼吸器症状、肺炎など。慢性の場合は疲労感、慢性肝炎、心筋炎など。うつ病などの精神的な疾患と間違われることもある。

エールリヒア症(リケッチア)
▶︎犬への影響・・・急性の場合は発熱、鼻汁、流涙、食欲不振、元気消沈、貧血など。
▶︎人への影響・・・発熱、頭痛、関節炎、倦怠感、呼吸困難などがみられる。放置すると命に関わることもある。

マダ二やノミを見つけた時は

ノミ

マダニやノミを見つけた時は慌てず落ち着いて対応する

⚫︎動き回っているマダ二は粘着テープで取る
ガムテープでノミをとる
動き回っているマダ二を見つけた時は、マダ二を潰さないように注意しながら粘着テープをそっと当ててくっつけ、そのまま包み込むようにして貼り合わせて密封します。マダ二に咬まれないうちに除去できればよいので、落ち着いて処理しましょう。

⚫︎マダ二が皮膚から離れない時はすぐに病院へ
ノミの吸血中
人でも犬でも、マダ二が皮膚にくっついてしまって取れない時は、すでに吸血している可能性があります。無理に取ろうとすると口器が残ってしまうことがありますので、マダ二を潰さないように注意しながら直ちに医療機関で診てもらうようにしましょう。

⚫︎ノミを潰さない
ノミを潰すと病原体が飛び散って、そこから様々な病気に感染することがあります。また、卵を持っていると、卵も撒き散らしてしまうことがあります。ノミは潰さずに取り除くようにしましょう。

⚫︎犬の体にノミがいる時
目の細かいノミ取り用のクシを使って取り除きましょう。ノミがクシに引っ掛かったら、すぐに粘着テープに取るか、中性洗剤を薄めた水中に落とします。見つけ次第、シャンプーをしてノミを死滅させると確実です。なお、犬の体にノミがいる時は、普段犬のいる環境にノミの卵や幼虫がいることが考えられます。ノミを駆除するために、駆除剤を使いながら掃除を徹底して行いましょう。

⚫︎体調がおかしい時
マダ二に咬まれたりノミに刺されたりした後は、犬も人も2〜3週間は体調の変化に注意しましょう。できれば毎日体温(平温は37.5℃〜38.5℃、犬により多少変わるので普段から体温をはかって平温を確認する)をはかり記録して赤い腫れがないか、痛みや痒みはないなどがないか、確認します。発熱や発疹などの症状が出た時は、すぐに医療機関を受診しましょう。その際は、マダ二に咬まれた、ノミに刺された、蚊に刺された、草むらや河川敷に入ったなどの状況も伝えるようにしましょう。

マダニから感染!犬のバベシア症とは?

バベシア症

犬のバベシア症はどんな病気か

バベシア症とは、マダニを媒介によって感染。バベシアという原虫が犬の赤血球に寄生して溶血性貧血を起こし、様々な症状が引き起こされて治療が遅れると死に至ります。病原体であるバベシア原虫はマダニの体内に潜んでいて、吸血と同時に犬に感染します。日本国内では病原性の比較的弱いバベシア症が関西以西の西日本・四国・九州・沖縄地方に多く発生していますが、近年では東日本以北での犬の感染例も報告されています。

症状は高熱と重い貧血

一般的に、バベシアに感染してから2~3週間で症状が現れます。主に高熱や重い貧血の症状で呼吸が荒く、すぐ疲れたり口の中の粘膜が白っぽくなります。また、脾腫(脾臓肥大)、茶色い尿、などの症状がみられます。重症の場合は、重度の貧血、黄疸、肝臓や腎臓の機能障害の多臓器不全が起こり、治療が遅れて死に至る場合もあります。

治療薬は無い

現在のところ特効薬がなく、バベシアを完全に除去できる治療薬はありません。なので治療は抗菌剤や抗生物質でバベシアの増殖を抑え、症状を緩和させます。症状が治まってもバベシア虫体が体内に潜んでいることもあり、体力や免疫力が低下すれば再発が見られる症例も多く知られています。

バベシア症にならない為に

最善の治療は予防です。シーズン中は予防薬を忘れずに投与、もしくは、1年中投与することによって防げます。投与しても草むらや山などに入ると注意して犬の体をくまなくチェックしましょう。もし感染してしまえば一生バベシア症と生きていくことになり、場合によっては寿命も縮めます。

犬のバベシア症

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