ポイント
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前庭疾患とは、前庭神経の障害により起こる疾患を前庭症候群と呼び、様々な原因で平衡感覚を失ってしまう病気全般を指します。前庭症候群のうち、末梢性の前庭症候群を示す典型的なものをホーナー(ホルネル)症候群といいます。犬の耳の奥には内耳と呼ばれる部分があり、カタツムリのような形の三半規管が両側の内耳に存在し、体の位置情報を脳に伝え、姿勢や体のバランス、平衡感覚を司る保つ役割を持っていて前庭神経とつながっています。しかし、それが炎症を起こして前庭に異常が起こると、平衡感覚が麻痺して頭や体の位置をコントロールできなくなり、障害されているのと同側に頭が傾いたり、一定の間隔で細かく眼球が左右に揺れたりする「眼振」、首の筋肉の収縮力が低下することで同側にグルグル回転してうまく歩けなくなる「捻転斜頚」があります。暗い場所や寝起きの時に症状が悪化することもあります。重症になると歩けなくなり、横に倒れたりします。症状も急に現れることが多く、飼い主も慌てるケースもあります。また、瞳孔の運動に関連する交感神経、及び顔面神経が中耳のそばを通っているので、同時によりこれらの神経が障害を受けることにより、顔面麻痺が併発します。平衡感覚の麻痺により車酔いのようなふらつき、めまい状態になるので、吐き気や元気消沈、食欲不振を示す場合もあります。眼振は数日で見られなくなりますが、ふらつき、めまいなどの運動障害は3~6週間続き、その後徐々に回復に向かいます。
一般的に5.6歳以上の犬によくみられる病気で、犬種問わず、どの犬にも発症します。原因のほとんどは内耳炎によりますので、強いてあげるなら垂れ耳が多く、内耳の炎症により前庭神経が圧迫を受け、障害されることにより前庭症状が見られます。他に脳腫瘍や脳炎、脳梗塞、薬物などによる刺激、耳の中の腫瘍(ポリープ)や甲状腺機能低下などが原因で三半規管に障害でなることがあります。原因がよくわからない突発性前庭疾患の場合は主に老犬に多くみられ、症状を示すまで24時間以内に訪れ症状は軽度から重度になるものまで様々です。また、季節により発症したり、症状を示さなかったりもします。予後回復後も場合によっては後遺症として生涯にわたってわずかな斜頚が続くことがあります。
突発性前庭疾患で、軽度から重度になるものまで様々ですが数日後から徐々に改善し始め、数週間で回復することが多いです。内耳炎の治療により改善しますが、治癒には時間がかかることもあります。腫瘍(ポリープ)は摘出することによって治療されることが多いですが、顔面神経麻痺などがある場合は、神経の動きが回復しても、治療までの間に顔の筋肉が萎縮してしまい、硬くなって動かなくなってしまうことがあります。これを防ぐために、顔の筋肉をよくマッサージすることで回復後の後遺症を残さないようにするのも大切です。脳梗塞や脳腫瘍などは難しい部位なので、治療もとても困難になります。また、甲状腺機能低下などでは甲状腺ホルモン剤を内服することで、改善の効果がある場合もあります。ふらつきやめまいでバランス感覚が崩れ、倒れたりして怪我をしないように十分な配慮が必要です。